
「思いつきや憧れだけでパイロットになれるほど甘い世界ではない。おまえには無理だ。」
進路を相談されたとき、私は開口一番そう言って反対したことを思い出す。
何百人もの乗客の命と高額な機材を預かるパイロットには、高度な操縦技術と専門知識が不可欠だ。
そして、それらを習得するためには優れた理解力と論理的思考力が求められる。
さらに、瞬時の判断力、マルチタスク能力、精神力、体力など、あらゆる資質が高いレベルで要求される。
「一握りの優秀な人間だけに許される職業」・・・それが当時の私の考え方だった。
そんな彼が、強い意志と不断の努力を積み重ね、運航乗務員訓練生としてエアラインに就職したのは2年前のことだ。
訓練は相当厳しかったようだ。
フェーズごとに実施される技量審査では、規定のレベルに達していない訓練生は不適格者として容赦なくふるい落とされる。
挫折しそうになったこともあっただろう。それでも同期の仲間たちと切磋琢磨しながら、一つひとつ壁を乗り越えてきたのだと思う。
頭ごなしに「おまえには無理だ」と決めつけた自分が、今となっては恥ずかしい。
そんな彼が、家族全員を羽田―長崎間のデビューフライトに招待してくれた。
ボーディングブリッジを渡り機内へ入る。高揚感と緊張感が入り混じる、不思議な感覚だった。
離陸前、機内アナウンスが流れる。
「この便は長崎空港行きです。機長は〇〇、副操縦士は〇〇、私は客室責任者の〇〇です。ご用の際はお気軽にお声掛けください」
運航乗務員と客室乗務員の紹介が続く。
その瞬間、彼の夢が本当にかなったのだと実感した。感無量だった。
この日の天候は快晴。横風もそれほど強くはなさそうだ。
ほどなくして、混雑するランウェイ05から機体が滑走を開始する。力強く加速した機体は大地を離れ、ゆっくりと右旋回しながら上昇していく。
コックピットでは、離陸後のチェックリスト確認や管制との交信で慌ただしい時間が続いているはずだ。
しばらくして機体が水平飛行に移った頃、CAさんが笑顔で声を掛けてくれた。
「副操縦士のご両親ですか。本日は初フライトおめでとうございます」
その言葉を聞いた瞬間、妻の目には涙があふれていた。
私も胸がいっぱいだった。
諦めなければ、夢は本当に叶うのだ。
素敵なプレゼントをありがとう。